ジョン・アーヴィングのホテル・ニューハンプシャーという小説には、ある家族と生活をともにする熊が描かれています。ステイト・オ・メインと呼ばれるその熊は、もともとサーカスで飼われていた過去をもつ、とても頭の良い、利口な熊です。
そんなに利口で、ましてやペットですらないですが、南会津にも熊が生息しています。ちょっと前には、事務所を少しくだったところで目撃されたくらい近くに住んでいます。他にも、鹿やキツネやフクロウや、僕はまだ見たことはありませんが、カモシカ、猿、フクロウなどさまざまな動物がいます。大きな生き物は、存在自体で自然が豊かであることを教えてくれます。
スタジオの掃除をすることが多い土曜日はある意味にぎやかです。
ある朝には、ヒッチコックのサイコに出てくるような悲鳴が聞こえてきました。駆けつけてみるとひかるさんがねずみと対面していて、そのまま駆除するのを手伝いました。
別の日には、スラムダンクの赤木キャプテンよろしく、ダンクシュートの雄叫びのような声が聞こえるので行ってみると、松本さんが蛇と鉢合わせたようでした。毒を持っていたら怖いですねという話をしながら、ちょっとググって調べたりしましたが種類まで分かりませんでした。
こんなふうに中くらいの大きさの生き物からは出来事が生まれることがあります。
さらに小さい生き物は五感を刺激します。
民家の屋根裏や壁の中で冬を越すカメムシは、冬眠の始まりと終わりの秋と春に家じゅうにあふれます。こんなにカメムシがいたなんてにわかには信じがたいくらいの数です。また、夏の、ちょうど今の時期、田んぼ沿いの道路脇に飛んでいるたくさんのホタルなど、匂いや光が生活のなかに紛れこんできます。
冒頭のアーヴィングには、他にガープの世界という小説があって、車のライトを消して真っ暗ななか坂道をニュートラルギアでくだっていくシーンが出てきます。僕もそれにならって、ランニング中に街灯もほとんどないような道路で、手に持ったライトのスイッチをほんのちょっとだけ切ります。そしてニュートラルな気持ちで、蛍のはなつとても小さな明かりを人知れず楽しんでいるのでした。