南会津町の「きとね」が2024年・日本建築学会の作品選奨を受賞しました。様々な方に参加していただいて、化学反応を起こしながら、南会津の方とチームとして取り組んだプロジェクトです。僕たちは、象徴となるみんなでつくる架構を提案したのみで、チームの真剣な取り組みに助けられたプロジェクトでした。講評文の中でも「大らかな合理性」という新たな気づきもあり、励まされました。関係者の皆様、大変ありがとうございました。またこれからもよろしくお願いいたします。詳細は下記リンク先をご覧ください。
講評文 ⇨ https://www.aij.or.jp/images/prize/2024/pdf/5_award_006.pdf
動画 ⇨ https://www.youtube.com/watch?v=EzkLGKchx6A&feature=youtu.be
業績紹 ⇨https://www.aij.or.jp/jpn/design/2024/data/5_award_006.pdfhttps://www.aij.or.jp/2024/2024prize.html#p6
講評文
敷地がある南会津地方には、東京都内から直通の特急電車が通っている。初めて乗るそ の電車を終点で降りると、町は深い山に囲まれた盆地となっていて、乗り換えなしで着い たとは思えないほど「遠くに来た」という印象を強く受ける。その山の中には今も、つげ 義春の漫画の舞台になった温泉宿があるという。恵まれた森林資源と尾瀬などの自然環境 に囲まれ、江戸時代より北にある会津から江戸に出る交通の要衝として独自の地域性を育 んできた。
しかし、町の中を歩いてみると並んでいる建築に地域性を感じることはできない。深い 山に囲まれた景観の中に、都会のニュータウンにあるような住宅が並んでいる風景は、ど こか居心地が悪そうに見える。緑豊かな南会津の地域性と、近代以降につくられた建築の 形式がつながっていないのだ。これは、日本中の地域で見られる現代的な課題だ。そして、 この小さな公共建築は、遠く離れている地域性と近代という 2 つの間をつなげようという、 大きな野心を感じさせる。
建築家は南会津の木材関係者と長いつながりを持ち、その経験を活かして地元で取れる 木材の種類や大きさについて情報共有することにより、ほとんどの木材が地域材となって いる。壁にはその木材を縦に並べて束ねる縦ログ構法が用いられて、箱状の落ち着いた空 間がいくつかつくられている。その上には、120×240mm のスギを 8 段積み上げた 10 本の 重ね梁が架け渡されて、天井高さが 4.5m の連続する空間が実現している。地元の森林組 合を指定管理者として、民間企業のシェアオフィスとショップで木材製品を展示、販売し、 また、オープンな会議室や子どもたちが遊びまわるホールなどが集められ、幅広い世代が 集う場を提供している。さまざまな利用を柔軟に受け入れる、のびやかな空気感が心地よ い。
重ね梁は、地元の大工技術でもつくることができるように考えられていて、木材を横に 並べて束ねる様子は横ログ工法ともいえるようだ。曲げモーメントが大きな部分には、カ ラマツの飼い木をせん断方向に嵌合することにより、2m もの積雪を支えながら 8m という 大きなスパンを可能にしている。これらのログ構法の特徴は、合理的に木材の強度やつく り方を検討しながら、その使用量を最小限にしなくてよいという点を、合理から外してい ることだ。この「大らかな合理性」によって、これまでにない架構形式を生み出している。 それは、地元林業の活性化にもつながるだろう。
本作品では、南会津の木材を有効に活用しながら、現代的な構法や構造から提案が行わ れ、その両方が空間の表現に密接につながっている。つげ義春を魅了したような地域性と、 大らかな合理性が初々しく隣り合っていることがすばらしい。この木造空間は、南会津に 特有の個別性を持ちながら、他の地域でも使えるような普遍性を見据えている。それは、 近代建築の大きな宿題のひとつだ。これからも、南会津という地域から、世界に臨むよう なチャレンジを期待したい。
よって、ここに日本建築学会作品選奨を贈るものである。