Photo by Shinkenchikusha 南西側立面。「田園地帯に風景の要素をつくる」「縦ログ構法のコアを活用した構造補強の実現」「既存建物を活用した温熱環境の提案」という3つの目標を掲げ、縦ログ構法により築50年ほどの建物を改修。はりゅうウッドスタジオとEDHの遠藤政樹(千葉工業大学)、田口雅一(大阪芸術大学)がチームをつくり進めた。基本計画作成後に既存建物を解体し、施工と並行して実施設計を行った。
Photo by Shinkenchikusha 既存外壁面自体の耐震補強は一切せず、内部の縦ログ構造壁で形成するふたつのコアにより既存部分を補強している。そのため工期短縮やコスト削減を達成しながら既存構造の補強が実現した。
Photo by Shinkenchikusha 応接室。奥に見えるのは居住スペースとの間仕切りで、居住スペースは改修していない。縦ログのコアを含めた建物前面の改修部分は農作業に関わる事務スペースとなる。
Photo by Shinkenchikusha エントランス。右に作業場1、左に作業場2、作業場の壁は105×105㎜の柱を緊結し、パネル化している。
Photo by shinkenchikusha 天井裏からエントランスを見る。既存屋根面までの天井高は4875㎜。既存建物は断熱材がほとんど入っていないが、作業場1,2内は環境が制御しやすい空間となっている。
Photo by Shinkenchikusha 西側からの空撮。
築後半世紀を迎える農家住宅の転機と継承
1950年(昭和25年)の建築基準法(旧耐震基準)から高度経済成長期にかけてつくられ、半世紀の時を刻んだ住宅が数多く残っている。今回の建物は建築基準法施行以降に建築されたもので、最低限の材料でつくられた軸組構法の建物である。竣工後、半世紀を迎える前に東日本大震災をきっかけに、建主は既存構造の補強、多少なりの温熱環境を確保すること、住まい方の改変と農作業に関わる事務スペースを取り入れることを目的に改修工事を決意した。
関東平野の田園風景は単調で屋敷林などの要素も少ない。広大な平地に広がる景色の中で屋根を突き破り現れた造形は、建築を継承する建主の意思の表れでもあり、屋根と外壁の新旧の混同した素材感が、半世紀を区切りとした新たなスタートを意味する。田園風景を更新する今回のプロジェクトは、改修によって農家住宅の可能性を探るケーススタディーともいえる。
既存外壁自体の耐震補強は一切せずに、内部の縦ログ構造壁で形成するふたつのコアにより既存部分を補強している。そのため工期短縮やコスト削減を達成しながら既存構造の補強が実現した。外壁の金属製外壁サイディングは見た目とコストのバランス、工期短縮のために、交換を止めて既存仕上げ材を継続で見せる仕様にした。既存の建物では、一部の過去に改修した箇所以外には断熱材が皆無であり、外気に近い気温になるため、普段人が居る作業場は縦ログ構造壁によって2重構造の内部空間とした。屋根部分と妻壁の仕様は、瓦を撤去後、外断熱構法で断熱を施している。